2022年度 第9回IRMAILサイエンスグラント
「エッペンドルフ賞」・「フォトロン賞」・「横河電機賞」採択者発表


エッペンドルフ賞


  • 採択者  日本大学 薬学部 薬学科 応用薬学系 分子標的治療学研究室
         教授 片山和浩 先生

  • テーマ  「急性骨髄性白血病の寛解を目指したFLT3 阻害薬重複耐性の予見と性状解析」

≪研究について≫
抗がん薬、がん分子標的治療薬、あるいは抗菌薬といった治療薬は、病気に対抗するために人類が手に入れた重要なツールです。これらの治療薬により救われる患者
さんがいる一方で、治療抵抗性や再発により有効な治療法が絶たれてしまう、薬剤耐性が臨床的に重要な課題とされています。薬剤耐性の分子機構を解明し、新たな
対抗手段を手に入れる足がかりを得ることを目指し、がんや感染症を中心に薬剤耐性機構の解析を進めています。
がん分子標的治療薬、とりわけキナーゼ阻害薬による治療では、再発や耐性との戦いと言わざるを得ません。事実、種々のがん治療ガイドラインには、再発と耐性が
生じた場合には二次治療・三次治療へと移行する、逐次治療を実施するようフローが明記されています。
急性骨髄性白血病治療薬として、近年、3 種類のFms-like tyrosine kinase 3 (FLT3) 阻害薬が上市されました。これらの単剤治療後には約半数の患者さんで再発が認め
られ、FLT3 に耐性変異が生じることが明らかになっています。しかし、変異箇所は薬剤ごとに異なるため、上手に使うことによりFLT3 阻害薬による逐次治療が可能
であると考えられます。本研究では、さらに先の逐次治療後を見越して、複数のFLT3 阻害薬により生じる可能性のある重複耐性変異を実験的に予見し、耐性の分子
機構を解明することを目的とします。
本グラント終了後には、予見したFLT3 重複耐性を克服できる阻害薬/化合物をスクリーニングします。本研究の最終目標は急性骨髄性白血病の完治であり、それに
向けて再発や耐性を制圧できる治療薬の開発を目指しています。

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フォトロン賞


  • 採択者  九州工業大学 情報工学研究院 知能情報工学研究系
         准教授 大北剛 先生

  • テーマ  「乾燥食品の計量装置を題材とした高速リアルタイム画像を用いた時間的な超解像度技術
         の開発」

≪研究について≫
2 つの研究で高速カメラを使用したいと思っています。一つの研究は、乾燥食品の計量機械の計量の精度を上げるために、フィードバック制御ループにビジョンによる画像情報を組み込むことです。この計量機械は、操作板のスイッチを押すと、電気系統で制御されたモーターの動作として伝達されるだけで、フィードバック機構がありません。フィードバックとして画像情報を使ってみたらどうかと思いました。別のアイデアとして、乾燥食品そのものを観測できれば、2D 画像から3D への再構築などの技術などを用いると体積/ 重量が推定できる可能性もある。これら2 つの情報を用いて、計量機械の計量の精度を上げることができるかどうかを検証できればと考えています。もう一つの研究は、行動認識を発展させた行動シミュレーションです。行動認識は、慣性センサや映像などから人の行動を推測する技術で良く知られていますが、行動シミュレーションというのは私が言っているだけで他に言っている人はいません。これは, 慣性センサの情報を映像の情報にして人の行動を可視化する技術です。慣性センサの情報は目に見えませんので、映像にして見れば、たとえば、過去の加速度センサでデータ取りしたデータがどのような行動を捉えているかのラベリングを紛失した際でも、何を収集したかの情報を再構築できます。この技術では、時間軸方向において高い解像度が必要で、高速カメラでやってみたいと思っていました。

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横河電機賞


  • 採択者  東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 RNA 生物学研究室
         助教 山崎啓也 先生

  • テーマ  「piRNA 生合成の場である生殖顆粒における多様なRNA の局在機構とそのトランス
         ポゾン抑制における役割の解明」

≪研究について≫
生殖細胞が持つ遺伝情報が正しく保たれることは、次世代への個体の継承において非常に重要です。しかしヒトをはじめとした生物のゲノム上には、遺伝情報を損なう恐れがある「動く遺伝子」トランスポゾン領域が存在します。生殖組織特異的に働くPIWI サブファミリータンパク質 (PIWI) と小分子RNA であるpiRNA は、複合体(piRISC)を形成してトランスポゾンを抑制することで、不妊の原因となる生殖細胞でのゲノム損傷を防いでいます。piRNA 生合成経路は「一次生合成機構」と、トランスポゾンRNA の切断と共役した「二次生合成機構」( ピンポン経路) に大別され、ピンポン経路は細胞質側の核膜周縁部に形成される「生殖顆粒」で行われます。生殖顆粒が形成されない個体はトランスポゾンの脱抑制や不妊の形質を示すことから、生殖顆粒形成メカニズムはpiRNA 経路の理解において非常に重要です。生殖顆粒にはRNA ヘリカーゼVasa やPIWI などのpiRNA 経路関連因子が局在しています。生殖顆粒を保持するカイコ卵巣由来培養細胞株BmN4 を用いた解析により、Vasa がRNA 依存的に液液相分離することで生殖顆粒を形成することがわかりました。piRISC によって切断されるトランスポゾンRNA とともに、液液相分離の足場となるRNA も存在するはずですが、それらのRNA 分子の内訳や局在機構には不明な点が多いままです。これはVasa が局在する生殖顆粒の流動性が非常に高く、細胞を溶解させて単離することが困難なことも要因となっています。そこで、横河電機社の細胞内サンプリングシステムSS2000 を用いて生殖顆粒を直接サンプリングすることで、生殖顆粒において濃縮されているRNA の同定や局在機構の解析を行なっていきたいと考えています。液液相分離によって構築される細胞内構造体は、RNAとの関わりが非常に深いことが数多くの研究により明らかにされてきました。生殖顆粒も例外ではなく切断を受けるトランスポゾンRNA、足場となるRNA やpiRNA など多様なRNA を含む構造体です。生殖顆粒の形成・機能におけるこれらのRNA の役割や、RNA の相互の関わりを詳細に紐解いていくことで、生殖細胞において遺伝情報が守られる仕組みの更なる解明を行なってきたいです。

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